2.遭遇

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「ここか。」 小屋の前まで着いて、レオンさんは立ち止まった。 「はい。…それじゃ、あの、いい加減降ろしてくれませんか?」 「どうせここまで来たんだ。最後まで送ってやる。」 「いやだから――「おい、誰かいるか?」」 僕の言葉を遮って、コンコンとレオンさんが小屋の扉を叩く。 僕はお姫様抱っこのままの状態をルドルフさんに見られるのが嫌で、レオンさんの腕の中に顔を寄せた。 ピクリとレオンさんの肩が動いたのが分かって、なんだか申し訳ない気持ちになった。 女の子ならまだしも、男の僕に寄られるなんて嫌だよな……。 でも、僕をこのままにしているのはレオンさんだし、僕は悪くない…はず。 「…む、おぬしか……。」 ゆっくりと扉が開き、ルドルフさんが出てきた。 「少し、中で話させてもらってもいいか?」 レオンさんの言葉にルドルフさんは頷くと、レオンさんが僕を下ろしてくれた。 「……アルフ、疲れたじゃろう。風呂に入っておいで。」 ルドルフさんは僕を見て優しく微笑み、頭を撫でてくれた。 その動作に安心して少し泣きそうになったけど、僕はそれを堪えて笑って頷いた。 「はぁ……すっきりした…。ルドルフさ……って、お話してるんでした。僕が邪魔してはいけませ―「だから危険だと言っとるじゃろ!!」…!?」 初めて聞いたルドルフさんの怒鳴り声に、僕は自室へ向かおうとしていた足を止めた。 「なんの、話でしょう…?」 あの温厚を具現化したように優しいルドルフさんが怒鳴るなんて。 何かあったのか、と不安になる。 僕はリビングの扉近くの壁にそっと寄りかかって、耳をすました。 「……まど……たら…ルフ……され……。」 「…が、……にも……あいつ……しか……だぞ」 (よく聞こえませんね……。あ。) 「レツカ、いますか?」 僕は小声でレツカを呼ぶと、〈ここにいる〉と、すぐに返事が返ってきた。 「ルドルフさん達にバレないように、話を聞いて来てくれませんか?」 〈…承知した。〉 その後、僕はそーっと自室に戻り、椅子に座って本を読んでいるところに、戻ってきたレツカに聞いてきた話を教えてもらった。 レツカはなぜか言いづらそうにしていたけれど、僕がじぃーっと見つめ続けると、折れたのか、話してくれた。 〈俺が分かったのもほんの少しだが…、昨日、アルが魔獣に襲われかけたとき、アルの前に喰われていた人間がいただろう?あれが、『帝国魔導士』とやららしい。〉 え、と息を呑む。 今まで、見かけたことさえなかった帝国魔導士が、なぜ…。 ……そもそも帝国魔導士団とは、フォリシア帝国(この国)生粋の魔導士を集めた精鋭団だ。その実態はあまりよく知られていないが、エルフ達の噂では、貧民街や親のいない孤児たち、そして自分達エルフを攫って"ある実験"を繰り返している、と聞いたことがある。 『彼等は魔力の強い私達エルフを、『人形』の実験体にするつもり。』 ふと、母の言葉を思い出す。 『人形』とは一体何なのだろう。 僕等を捉えて、帝国はいったい何がしたいのだろうか。 …昔から、ルドルフさんにきつく言われていたことがあった。 母が死んだ"あの村"には近づいてはいけないこと。 紺色の軍服を着ている人を見かけたらすぐ逃げる事。 怪我をしている人を見かけても、絶対に助けないこと。 そして、こんな人に会ったら、すぐにレツカ達に助けを求め、逃げること。 こんな人というのは、紺色の軍服に腰には剣。片手に本、灰色に近い黒髪の緑眼の男のことだ。 どんな人間よりも恐ろしく、危険な男だ。と、ルドルフさんは言っていた。 〈アル、大丈夫か?〉 黙りこくってしまった僕の顔を、レツカが心配そうに覗いた。 「はい。大丈夫です。レツカ、ありがとうございました。僕、少しルドルフさんとお話をしてきます。」 僕は椅子から立ち上がって、自室を出た。 「ルドルフさん、レオンさん……?あれ」 リビングの扉を開けると、レオンさんとルドルフさんの姿が見当たらなかった。 もうレオンさんは帰ってしまったのだろうか。 じゃあ、ルドルフさんはそのお見送りに…? そう思って玄関ドアに手をかけると、なぜか扉が勝手に開いた。
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