5.払暁※

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(※アルフレイドsideに戻ります。) 僕が目を覚ましたのは真夜中。 当然のように部屋の明かりは灯っておらず、真っ暗だ。 ゆっくりと周りを見渡して、部屋の中に誰もいないことを確認する。 僕はそっとベランダへ続く扉に手をかけ、そのまま開けた。 夜風が頬に当たって、少し肌寒い。 僕の今着ている服は、おそらくレオンさんのものだろう。 ぶかぶかだし、微かだがレオンさんの香りがする。 「……楽しく、美しく、困難な世界…ですか。」 ボソリと呟いては、今までのことを振り返ってみる。 いったい、こんな世界のどこが美しいのだろう。 平和に暮らしていた僕の楽しい生活は、今日、奪われてしまった。 どこかで信じていた。 こちらの世界ならもう、前世(あの頃)のように親の言う事に耐え、従い、体の弱かった長男の代わりに、"次期社長"などという重く大きい役目に追われることはないと。 実際、今世の僕は母親こそいなくなってしまったが、それなりに幸せだった。 いいや。 多分。幸せに、なりすぎたんだ。 だから、神様が怒って、『お前は幸せになるべき人間じゃない』って、そうやって、ルドルフさんを殺した。 「違う…!僕が、僕が殺してしまった。僕のせいでルドルフさんは、…!!」 神に罪を着せるなど、おこがましいにもほどがある。 自分が殺したのだろう。 僕の存在が、ただ一人の老人の命を奪ったのだ。 『なぜだ?白蓮ならこれくらい簡単に出来るだろう。俺を頼るな』 そう言ったのは、いったい誰だったか。 今まで成績優秀で、仕事もサボらず、ずっと僕の隣に立って、偉そうにしながらも僕を支えてくれた彼は、突然現れた得体の知れない、品もなく素行も悪い『男』の虜になった。 彼だけではない。 僕と一緒に頑張ってきた。頑張っていると思っていた人が皆、その男に奪われていった。 いつの間にか、僕は一人で。 それでも信じていた。 増え続ける膨大な量の書類だって、きっといつかはみんな戻って来てくれるだろうって、そう思って頑張り続けた。 もうすぐ、夢から目を覚まして、生徒会室(あそこ)に戻って来てくれるだろうって……。 やっと僕以外の手で扉が開いたかと思えば、その群れの中に、僕の居場所はなくて、むしろカチカチとパソコンを打つ音を嫌がられ、『邪魔だ。出ていけ』と、冷たく言い放たれた。 やっぱりいつだって僕の存在は、邪魔なのだ。 「――自棄(じき)になるな。」 背後からかけられた言葉に、僕は驚くことはなく、振り返ろうとも思わない。 「………レオンさんですか。」 「辛いなら吐き出せ。」 「……」 「苦しいなら、言え。」 「…………てッ…!」 どうして、そう簡単に、無責任なことが言えるんだ。 「僕の事を、何も知らないくせにッ!!何が辛くて、何が苦しかったかなんて、何も、何も知らないくせにッ!!!!!」 「だから教えてくれ。……人だろうが、エルフだろうが、獣だろうが…、言葉で伝えなきゃ何もわからない。」 「でも、伝えたってどうせ…!!」 みんなと同じようにあなたも「お前なら出来る。」って、「一人でも大丈夫だろう」って、そう言って、「頼るな」って… 「だから言わないと、わからないんだよ…!」 ぐいっと、体が後ろに引かれ、強く抱き締められた。 「俺はお前のことをよく知らないから、その辛そうな顔を笑顔にする方法も、何も分からない。 ただ……お前はよく頑張った。充分頑張った。だからもう、堪えなくていい。必死に気を張らなくたって、もう、いいんだ。」 暖かい手が、肩から頬に触れて、そのまま頭へと持っていかれる。 わしゃわしゃと、乱雑に撫でられたかと思えばぽんぽん、と今度は優しく丁寧に頭を撫でられる。 僕の中でずっと、ピンと張り続けていた糸が、音を立てて切れた。 振り返って、暖かくて、広すぎるその胸に、言葉にならない思いを連ねた。 レオンさんは、僕の頬から伝う雫や漏れる嗚咽を止めることはせず、ただ優しく、頭を撫で続けてくれた。
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