雪女

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私は4年と5ヶ月、雪女と一緒におりました。 それは、うそ偽りない事実でございます。 10人いれば鼻で笑う方が9人、残りの1人は気の毒そうな顔をしながら、とりあえず話を聞いて下さるかもしれません。 しかし直に彼女と接したことのない者に信じろというのは酷なはなしであります。 人は自分の物差しの範疇を超えるものは無条件に軽蔑しますから。 私はある御方に雪女を紹介していただきました。紹介というとすごくフランクな響きがございますが、彼女はその御方の数あるコレクションの1つとして保管されておりました。 保管といっても、6畳ぐらいの窓のない部屋の真ん中に、ただ身動きひとつせずに、立っていただけであります。 試しに、いくらですかと聞きましたら、欲しいなら持っていってくれて構わないとおっしゃるのです。 本当にタダでいいのかと念を押しましても、構わんとおっしゃるので、しばらく考えておりますと、いらんなら他にもやる当てがあるとおっしゃいますので、それなら貰いますと言いました。 さっそく私の屋敷に連れて帰って広間でまじまじと眺めてみました。 雪女はただうっすらと微笑しているばかりで、なにも話そうとしません。 もしや言葉が無いのかと尋ねてみたら、 「ございます」 と返事が返ってきたので安心しました。 なにを考えているか分からんものを家に置いておくのは気持ちが悪いからであります。 意思の疎通ができるならば、いくらでもやりようがあります。 雪女はやはり白装束を着ておりましたので、脱ぎなさいと命じますと、するすると裸になりました。 私が驚いたのは乳首までが真っ白だったことです。人差し指でつついてみると、一気につま先にまで痺れるような悪寒が走りました。そしてこれはたまらなくクセになりました。私は1日に6回コーヒーを嗜むと決めておりますので、その時は必ず雪女を横へ立たせて、乳首を触っておりました。 雪女は特に何も申しません。こちらから何か話しかけない限りは基本的には微笑しているのみです。 うちへ来た当初に、お前はなにを食って生きるのだと聞いたら、1年に一度だけ若い女をひとり下さるだけで結構ですというから救われました。もしかすると、まいにち大量の雪や氷をこさえて来させなければいけないのかと心配しておりましたので。 しかし食べることがないということは排泄もしないということなのに、なぜ尻の穴は開いておるのだと尋ねると、人間だった頃の名残りだというのです。 ではお前はいつ雪女になったのだと聞くと、覚えていないと言うのです。 私はひどく腹が立ちました。 先程も申し上げましたように、私はワケのわからないものを家に置いておくのが心底、嫌なのです。私は激しく折檻を致しました。致し方の無いことです。 それから雪女は、私のどんな質問にも分からないとは言わなくなりました。しかしそれは少なくともであります。 というのも、明らかに話が矛盾していたり辻褄が合わない事があるからです。 またハラワタをほじくり返されるのが余程イヤなのか、話を作っている節があるのです。しかしそれは私にはまったく問題ございません。その時その瞬間の私の質問に対する答えとして意味が分かれば、筋が通っていないことなどはどうでも良いのです。 ようやく私の家に平穏が戻りました。 そうして雪女を家に置いてからちょうど4年と5ヶ月が経とうとした頃でした。 雪女の夫だという男が訪ねてきたのです。 私はすぐにその男を殺してしまおうと思いましたが、少しばかりの興味が頭をもたげてきましたので、2人を会わせてみることにしました。 お互い泣き叫んで抱擁でもするのかと思っていましたら、雪女はいつも通り静かに微笑しているだけですし、夫だという男の方も顎に手を置いて無表情で雪女をしげしげと見ているだけでした。 これはもうこの男は殺してしまったほうが良かろうと決めにかかった時でした、その男が雪女の胸に手をかざすと、みるみるうちに雪女の白くて冷たい肌に赤みがさし、生気が宿ってまいりました。そうして男の手のひらに手鞠ほどの白い塊りが収まった頃には、雪女はすでに雪女ではなく、ただの変哲のない女になっておりました。 私がただただ驚いていますと、なんの反動か、女は突っ立ったまま涙や鼻汁やヨダレをダラダラと流し、小便、大便をダバダバと垂らしました。 そして私と目が合うと、この世のモノではないようなおぞましい顔になり、私に襲い掛かろうとしたところで、プツンと糸が切れたように死にました。 そして、男が優しく言いました。 「次はあなたのようですね」 私はいま、あの御方の数あるコレクションのひとつとして保管されております。近くへお越しの際は、ぜひお立ち寄りください。お待ちしております。
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