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微かに身体の反応が遅い気がしたが、初めて動かす物理人の身体だ。そのうち慣れるだろう。
「身体の動きはどうだ?」とタキザワの声。
「大丈夫です」
「できるだけ君の背格好にあわせた身体を用意したつもりだ」
振り返ると、壁一面にカプセルが並んでいて、中に人の形をしたものが入っていた。
視界の上の方を青色の文字が流れる。
「これは?」
「物理世界の念動型電子端末だ。我々の世界の端末と同じようなものでターミナルを離れても通信できるようになっている。地上に出れば地図が表示されるから、それに従って進めばいい」
「わかりました。行動を開始します」
正面にある部屋のドアノブに手をかける。ほんの少し力をいれただけで、キィと鳴って回った。
薄暗い光に照らされた廊下を右に左に曲がり、突当りのエレベーターに乗る。
1万年経っていても、動くものなんだな。
定期的に軋む音に耳をすまし、足の裏でこの世界の重力を感じていた。
「あとゲートを2つくぐれば、外だ」
タキザワの声を聞きながら一歩一歩足を進めるたび、1万年もの間静止していた空間の向こうに、動きのある世界の存在を感じていた。
最後のゲートに教えられたコードを入力すると、カシャンと乾いた音が響く。
ドアノブにそっと手をかけ、外に向けてぱっと開いた。
光。
光が、飛び込んできた。
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