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「人と人、国と国同士のちょっとした争いで世界を滅ぼした人類に対する戒めとして受け継がれてきた物語と思っていた。昨日までは」
「昨日までは?」
質問には答えず、タキザワは立ち上がり指を鳴らす。
2人の横に巨大なパネルが突如出現し、青白い淡い光を放つ。
「我々の世界のすべての源は、1万年前に捨て去った物理世界にある半導体記憶装置の集合体……というのは、電務省にいた君に教える必要はないな」
私の顔を一瞥し、タキザワはパネルに白く点滅する一箇所を指し示す。
「先週、物理世界に7つある記憶装置『マザー』の1つに異常が発生しているのがわかった。電源が消失しかかっているらしい」
パネルに描かれてある樹木に、大きく赤いバツが点滅している。
「放っておけばマザーはいずれ停止する。停止すれば」
「我々の存在が、消える?」
ああと言うタキザワに、私は息を呑んだ。
「まさか、消死事件は」
「そう。マザーの読み書きの不具合による電子生命データの消失だ。マザーの異常な動作に重なった運の悪い電子人の生命データが復元されず消えたのが、真相だ」
淡々と綴る言葉に、ぐっと握りしめる手が熱くなる。
「我々が生き残るためには何をする必要があるんですか」
「『大転回』を行う」
タキザワが再びパチンと指を鳴らすと、パネル上の樹木が崩れ、新しい画像と文字で埋め尽くされた。
「1万年前のコードを解析してようやくわかった。『大転回』とは、物理世界におけるマザーの電力の切替だ。物理人は1万年しか持たない電源の代わりを物理世界に用意しているらしい」
くるりと向いたタキザワが目を細める。
「ただ、電力の切替えにはオンライン化前、つまり物理世界に『行く』必要がある」
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