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蒼い。
雲ひとつない空は、目にしたことがない海の底に沈んでいくような蒼さだ。
太陽がひときわ眩しく、直視できず目をぎゅっと瞑ってしまう。
地上は想像していた何もない荒野ではなく、かつて栄えた街並みもなく、ただ辺り一面に木々や草花の緑が生い茂っている。
生暖かい風が、頬を撫でつける。
物理世界の季節では4月とタキザワが言っていた。
1万年前はコンクリートという硬い地表に覆われ四角い建物が立ち並ぶ街があったということだが、今は遠くに1つか2つ、崩れかけたり斜めになっている物体が見るだけで、見渡す限りことごとく緑に囲まれている。
「荒々しい」と思った。
ふだん住んでいる電子世界は、すべてが適度なものとなるよう調整されている。
温かい太陽。
心地よい風。
整理されて置かれる植物。
整然と並ぶビル群。
この混沌とした感じは、かつてアナログと呼ばれていた感覚なのだろうか。
ゼロかイチか、あるかないかで紡がれる世界とは違った感覚を、電子人である私が物理人の肌を通して感じていた。
眼鏡に映し出される地図によれば、ターミナルの地上部から真っ直ぐ30分歩けば、マザーのある建物に到着するようだ。
しかし、真正面は大小様々な木々で覆われてた林になっている。中を真っ直ぐ突き進んでいくのは難しい。
とりあえず、迂回しながらマザーに向かってみることにした。
ざっ。ざっ。
足を進めるたび、草がしなり、凹み、折れる音が聞こえる。
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