ロード・オフライン

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 がっ。    草むらの陰に隠れて見えなかったこぶし大の石につまずく。バランスを崩し前の方にこけそうになるのを、もう一方の足を前に出し踏みとどまる。  危ない。  身体の反応がやはり遅いのか、それとも、電子世界にはこんな歩きにくい場所はないから慣れていないのか。  ドクッ、ドクッ。  ……なんだ。  左胸の辺りをそっと押さえてみると、心臓と呼ばれる臓器の動きが速くなっていた。  物理人の生命の源である血を全身に送るのが役目のはずだが、緊張すると速く動くのが不思議だ。  「どうし……た……?」  「なんでもありません。石に躓いただけです。それよりも、声が……」  「これ以……電波……かない……」  どうやら電波の中継地点が壊れてしまっているのか、通信可能な距離が限られているようだ。  歩いていると錆びついた黒い金属製の柱ところで通信が切れてしまった。    ひとり、眼鏡に表示された地点に向かって歩き続ける。  途中、コンクリートの残骸の横を通り過ぎた。  日本という国の中心部であったこの場所は、青々とした緑も新鮮な空気もない、石で覆われ殺伐とした場所であったと聞いたことがあるが、今は跡形もなく草木に覆われている。  人類が捨てた世界は、今も存在していた。  しかし、撒き散らされた放射線が1万年をたっても残っているからなのだろうか。植物はともかく、動物は目にしない。    1万年前の当時の状況を想像しながら廃墟を眺めていたとき、視界の右隅で何かが動いた。  首をゆっくりと正面に向け、目を見開いた。  二足歩行の生物。  絶滅したはずの世界に、人類が生きていた。
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