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浮気
彼氏が浮気をした。
考えられない……。私がどれだけ彼に尽くしてるか分かってないのよ。しかも、相手の女が本命ですって?! ホントあり得ない!
怒り心頭に発した私は彼の部屋を訪れた。
私を見るなり、彼は嫌そうな顔をして「もう会いに来ないでくれ」と言う。本命の女と鉢合わせたら困るという事なんだろう。でも、居座ってやる。今日の予定を聞くと、部屋の除霊の為、お坊さんが来るですって。何、その下手な嘘。彼女に会うつもりに決まっている。2人の仲を引き裂いてやる。出来る限り、彼の困る事をしてやる。とにかく腹立たしい。彼の行動全てに腹が立つのに、心のどこかで彼の事をまだ好きな自分にも腹が立つ。彼と同じくらい自分にも嫌気が差す。猫好きなのに猫アレルギーのような、三半規管が弱いのに絶叫マシン好きのような、何とも気持ち悪い感情……。彼は顔が良いだけの、ホントにしょーもない男なのに……。
すると、本当にお坊さんがやって来た。それも2人。他に、背の低いスーツの男性もいるけど、この人は付き添いのように見える。
1人は小太りの30前ぐらいに見える男性。見た目だけだと、本当に除霊出来るの? って思っちゃう新人風。袈裟って言うのかな? 着せられている感が出ている。髪の毛も短めながら普通にある。
もう1人は50代ぐらいに見える、眼鏡を掛けた中肉中背の男性。頭も丸めているせいか、こちらは本物っぽい風格が漂っていて、ちゃんと修行してきたんだなあと思わせる。2人の会話を聞く限り師弟関係っぽい。
「それでは」
新人風の方が除霊を始めるみたい。無理でしょと思いながら、お経を聞く。うーん……最初からダメ。詳しくは知らないけど、素人でも聞くだけで分かる。下手くそ。とにかく気持ち悪い。黒板や、すりガラスに爪を立てて引っ掻いたような嫌な音を思い出す。不快極まり無い。30秒程我慢して聞いていたけど、もう無理。
「やめてー!」
私は遂に叫んでしまった。彼とお坊さん2人がこちらを向いた。スーツの男性は、我関せずと言った感じで見向きもしない。新人風は少し驚きながらも、お経を止めない。
「やめてって言ってるでしょ!」
私の2度目の叫び声を聞いて、師匠と思われるお坊さんが後ろから、右手で新人風の左肩をポンと叩くと、ようやく新人風は、お経を読むのを止めた。
「代わりましょう。こういうタイプは追い出そうとしてはダメです」
師匠は数珠をジャラッと鳴らした後、お経を読み始める。少し聞いただけで分かった。この人は出来ると……。とにかく心地好い。赤ちゃんが母親のお腹で聞く音というのは、このような感じなのかと想像させる。何か嫌な事があった筈なのにどうでも良くなった。
……私はそこで意識を失った……。
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