第1話 ルイ・マックールからの招待状

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 ルナの住む国には、魔法使いと〈魔法使わない〉が一緒にくらしている。  けれど、その割合は圧倒的に〈魔法使わない〉の方が多い。  そのため、この国の法律は〈魔法使わない〉を優先的に守るように作られている。  例えば、チョットほうきで空を飛ぶときにも、いろんな書類を提出しなくちゃならないし、ちょっとでも飛行区間をはみ出だせば、すぐに白バイがとんで来る。  そんなことをしてまで、わざわざほうきを使う魔法使いなんていない。ルナの国には、もっと便利な交通手段だってあるんだから。  魔法使いたちがロッカールームの中でほこりかぶったほうきを引っ張り出すとき。それは、何かのイベントくらい。  出し物として、ほうきに乗って宙返りなんかして見せると、〈魔法使わない〉の子供たちが大喜びしてくれるから。  そういう時、魔法使いたちは大満足の笑顔をこぼす。この国で、魔法の使といえば、それくらいしかない。  だからみんな魔法学校には進学せず、普通学校の中等科(ちゅうとうか)高等科(こうとうか)などに進んでいく。  けれど、これを()に「魔法使いになりたい」と打ち明けた子が、増えたかもしれない。  子供たちだけではない。就活中(しゅうかつちゅう)の学生さんも、転職希望(てんしょくきぼう)の社会人も、みんなみんな、次の満月に向けて何かしらの準備をしている。  弟子に志願(しがん)しなくても、当日に人が押し寄せることを見込んで、大急ぎで新しい商売を始めた人たちもいる。  けれど、誰より大忙しなのは、この国に住む数少ない魔法使いたち。  彼らには、国から直々(じきじき)要請(ようせい)が出た。  ――当日に起こり()る、〈魔法使わない〉には想定(そうてい)できない事態(じたい)(そな)え、国にアドバイスし、安全にルイ・マックールの弟子取りが行われるよう、積極的に協力すること――  当然、これを不満に思ったり、めんどうに思ったりする魔法使いもいた。  けれど多くの魔法使いは、どこかちょっぴり照れ臭そうにして―― 「普段披露(ひろう)することは(ひか)えてきたんだけど……」  ――と、得意げに、魔法の知識を役立ててくれた。魔法使いは、人を喜ばせるのが大好きだから。  子供が魔法使いという不安定な進路を希望しても、頭ごなしに反対する保護者が減ったのは、彼らの活躍(かつやく)があったからかもしれない。  なんにしても、ルイ・マックールからのお知らせはいろんな人にとって、一つのきっかけになったようだ。ルナのように、一歩が踏み出せない子を(のぞ)いては……。  本当はルナだって、世界一の大魔法使いに全く興味がなかったわけではない。  ただ、自分がそんなすごい人の弟子に選ばれるわけがないから、よその人のお話だと思っただけ。  満月の夜の小学校のグラウンド。  ルナは、いつもと同じ薄紫(うすむらさき)色のパーカーワンピースで立っていた。
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