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ルナの住む国には、魔法使いと〈魔法使わない〉が一緒にくらしている。
けれど、その割合は圧倒的に〈魔法使わない〉の方が多い。
そのため、この国の法律は〈魔法使わない〉を優先的に守るように作られている。
例えば、チョットほうきで空を飛ぶときにも、いろんな書類を提出しなくちゃならないし、ちょっとでも飛行区間をはみ出だせば、すぐに白バイがとんで来る。
そんなことをしてまで、わざわざほうきを使う魔法使いなんていない。ルナの国には、もっと便利な交通手段だってあるんだから。
魔法使いたちがロッカールームの中でほこりかぶったほうきを引っ張り出すとき。それは、何かのイベントくらい。
出し物として、ほうきに乗って宙返りなんかして見せると、〈魔法使わない〉の子供たちが大喜びしてくれるから。
そういう時、魔法使いたちは大満足の笑顔をこぼす。この国で、魔法の使い道といえば、それくらいしかない。
だからみんな魔法学校には進学せず、普通学校の中等科や高等科などに進んでいく。
けれど、これを機に「魔法使いになりたい」と打ち明けた子が、増えたかもしれない。
子供たちだけではない。就活中の学生さんも、転職希望の社会人も、みんなみんな、次の満月に向けて何かしらの準備をしている。
弟子に志願しなくても、当日に人が押し寄せることを見込んで、大急ぎで新しい商売を始めた人たちもいる。
けれど、誰より大忙しなのは、この国に住む数少ない魔法使いたち。
彼らには、国から直々に要請が出た。
――当日に起こり得る、〈魔法使わない〉には想定できない事態に備え、国にアドバイスし、安全にルイ・マックールの弟子取りが行われるよう、積極的に協力すること――
当然、これを不満に思ったり、めんどうに思ったりする魔法使いもいた。
けれど多くの魔法使いは、どこかちょっぴり照れ臭そうにして――
「普段披露することは控えてきたんだけど……」
――と、得意げに、魔法の知識を役立ててくれた。魔法使いは、人を喜ばせるのが大好きだから。
子供が魔法使いという不安定な進路を希望しても、頭ごなしに反対する保護者が減ったのは、彼らの活躍があったからかもしれない。
なんにしても、ルイ・マックールからのお知らせはいろんな人にとって、一つのきっかけになったようだ。ルナのように、一歩が踏み出せない子を除いては……。
本当はルナだって、世界一の大魔法使いに全く興味がなかったわけではない。
ただ、自分がそんなすごい人の弟子に選ばれるわけがないから、よその人のお話だと思っただけ。
満月の夜の小学校のグラウンド。
ルナは、いつもと同じ薄紫色のパーカーワンピースで立っていた。
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