第2話 満月の夜12時の決断

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 委員ちょは、急いでるのに的外れなことを言い出すルナに一瞬きょとんとする。けれど、さすがはしっかり者。すぐに立て直して、真面目にこの音楽について答えた。 「この音楽はね、舞踏会なんだよ。ルイ・マックールはこっそり舞踏会に行くからって、元吹奏楽部の大人が張り切って始めたんだ。うちのパパもその一人。まったく、大人ってタンジュンよね! あんなのただのウワサなのに!」 「本格的だあ……!」 「会場は体育館だけどね。社交ダンス愛好会の人たちが、初めての人にもカンタンなのを教えてくれてるんだよ。うちのクラスも何人か踊ってる」 「わあ! それはびっくりだね!」 「びっくりはこっちだよ! 早い人は十九時(しちじ)から来て楽しんでるよ。それに……」  委員ちょは歩く速さをゆるめ、ルナのことを振り返って見た。 「せっかくのキレイな色の髪の毛、おろさなかったの?」  ルナは無意識に、左右の長い三つ編みをきゅっと握った。  ルナの髪の毛は、光り輝くお月さまと同じ色をしている――。  だから毎日、こうして三つ編みにして目立たないようにしている。ルナはあわてて、近くに声の大きい人はいないか探した。  みんなはルナの髪の毛を「光り輝くように美しい」なんて大げさにほめる。  けれどルナは、それがあんまり嬉しくない。  たとえば、みんなに囲まれるキラキラした女の子。  そういうのに憧れる気持ちはあるけれど、それと、実際に自分がそうなるのとは、ルナにとっては別の話。  どういう顔をしていたらいいのか。  なんて言ったらいいのか。  わからなくなってしまう。   今だって、せっかく、委員ちょが髪の色がきれいだ、って言ってくれたのに、やっぱり、何の反応もできなかった。 「服もいつも通りだし、もしかしてルナはルイ・マックールの弟子に立候補しないつもりなの?」  委員ちょは、ルナの格好(かっこう)をじっくり(なが)めて首をかしげた。言われてみて、ルナも同じように委員ちょを上から下まで眺めてみる。 (あ……!)  校門からの抜け道はうす暗くて、ルナは今まで気が付かなかった。  委員ちょは、いつもよりずっと、おめかししている。 「かわいいね」 「ありがと。――こっち!」
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