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25.悪夢から逃れられるのなら誰でも良い。
「‥‥‥」
「目が覚めたか？」
「お父様」
私は自室のベッドの上にいた。
気を失った私を父が連れて帰ってきたのだろう。とんだ社交界デビューだ。
悲鳴を上げた上に気を失うなんてとんだ失態ね。でも、落ち込んでばかりはいられない。早く何か対策を立てなければ。
「お父様、誰でもいいです。私に護身術を教えてくれる先生を探してください」
「な、何を言っているんだ！お前は公爵令嬢だぞ！そのようなはしたない真似はさせられない」
「騎士のように剣を振り回したいと思っているわけではありません。ただ自分の身を守りたいだけです」
父はため息を着いた後ベッドの横に椅子を持ってきて腰を下ろした。
「お前の身に何があったのかカーディル君から聞いている。何でも王女殿下がお前の男爵令息との婚姻を無理強いしようとした上に、その男爵令息がお前に無体を働いたとか」
気を失う前にカーディルを見たけど、彼にはそのように見えたのか。ただ手首を掴まれただけだけど。
ああ、そうか。
ここは日本とは常識が違うんだった。
知り合いでもなければ、婚約者でもない異性の体に気安く触れてはならないものね。
普通の令嬢なら幾ら貴族と分かっていても知らない男性に手首を掴まれただけで恐怖で失神することもある。私はそこまで繊細じゃないけど。
「公爵令嬢であるお前が男爵令息との結婚なんてあり得ない」
「どうしてそう言い切れますの？王女殿下は仰っていましたわ。私と彼は想いあっているから自分がどんな手を使ってでも結婚させてあげると」
「想いあっている？」
ぎょっとした父に私は「王女殿下のいつものくだらない妄想ですわ。私と彼は今回が初対面です」と補足した。父はほっとしたようだ。
「でも、王女殿下のことです。周囲に自分の妄想を言いふらすでしょうね。そして自分は恋のキューピットにでもなったかのように美談を語り始めるかも」
悲劇を喜劇にすり替えるのはマヤの十八番だ。いつもそれに振り回されていた。もういい加減、解放して欲しい。
「既成事実を作られたらアウトです。そうならない為に私は自分の身は自分で守りたいのです」
「なら、お前に護衛をつけるのは」
「護衛が四六時中ついてくれるとは限りません。トラブルが発生して護衛が私の元を離れる可能性だってあります。その隙を狙われたら？」
「そうならないように護衛たちには」
「お父様っ！」
落ち着こう。こんなのは私じゃない。父を説得することなんていつもの私なら簡単だ。冷静になれ。感情的になるな。
「何もできず、ただ守れらるだけなのとある程度身に着けている私を守るのでは、私の身に降りかかる危険度が違いますわ。それともお父様は私をあなたに何の利益も与えない男爵家に嫁がせたいのですか？」
「そんなわけないだろう」
「なら、了承してください。私も貴族の娘です。あなたの娘です。結婚する相手は家に利益のある人が良いです。でも、今のままではそれができるか不安なのです。王女殿下がどのような手を使ってくるか分かりません。あの男がどのような手段を用いるか分かりません。娘に甘い陛下が王女殿下のお願いを聞いたら？」
アイルのことだ私が彼に思いを寄せているけど身分的にその恋を諦めている。自分は親友として力になりたいというだろう。そうすれば陛下は心優しい娘の願いを叶えるだろう。
あくまで娘の友人の恋を助けるという名目で。
「早急に婚約者と先生を用意してください」
この際だ。我儘は言わない。あの男以外なら誰でも良い。誰か‥…。
「分かった」
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