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27.かける命はない
アイルは自分の妄想に夢中だし、アシュベルとカーディルが壁になってくれてはいるけどアグニの視線はうざいし。もう最悪。
だけど王女相手に無礼はできない。
どんな形で陛下の耳に入るか分からないし、王女に気に入られている私のことが気に食わないと思っている人は多い。
アイルのような馬鹿な王女は操りやすいと考える人はいる。それにあまり評判の良くない王女は自分たちの失態を擦り付けやすいのだ。だからアイルのような王女こそ近づきたいと思う貴族は多い。
謝の良し悪しは別にして王族というブランドを欲しがる貴族も多い。
そういう人たちにとって私はかなり目障りな存在だろう。私からしたら欲しい奴に押し付けてしまいたいけどね。
何とか苦行を耐えて、私は退出した。
周囲の侍女からは相変わらず冷たい視線だ。来たり来なかったりするのに自分たちと同じ侍女を名乗られれば誰だっていい気はしない。
「大丈夫か?」
ちょっと前まで私のことを敵視していたカーディルはさすがに心配そうに見てくる。
「大丈夫か?」と聞かれても大丈夫ではないのが現状。
面倒な相手が一人から二人に増えるし、知らない間にアイルよりも先に攻略対象者と知り合ったことによって変な噂を流されそうだし、堪忍袋の緒は切れそうだし。
でも弱音を吐いたところで現状を打破できるわけではない。
どうにかしてくれる人間がいるわけもない。
そんな分かりきったことを聞かないで欲しいと思うぐらい私の心は荒んでしまっている。だけど相手は子供。八つ当たりするのは大人げない(前世と今の年齢を合わせると成人しているから)。
「問題ありません」と私は笑顔で答えた。
カーディルとアシュベルは私の答えに納得しているわけではなさそうだけどそれ以上は何も言って来なかった。
◇◇◇
「公女様は王女殿下の護衛騎士になるおつもりなのですか?」
「‥‥‥」
今日はユニアスに短剣の使い方を習っていた。
アイルがうるさいから先生を交代してもらおうかとも考えたけど彼ほど優秀な人はいないし、何よりもこちらからお願いしているのに変更を願い出るのは失礼に当たる為引き続きユニアスに指導をお願いしてもらっていた。
すると早速聞きづてならないことをユニアスが言う。
「違うのですか?」
「なぜそうなるのか理解に苦しみます。貴族の令嬢がちょっと訓練しただけでなれるほど容易い職業ではないでしょう。護衛騎士は」
「ふむ。だが、貴殿は呑み込みが早い上にごろつき程度なら問題なく対処できるレベルになっている」
神様からもらったチート能力が仇になった。
「私は公爵令嬢です。男なら多少の傷も勲章になりましょう。でも女の場合は違いますよね。“傷物”として周囲に嘲笑われながら生きていきたくはありません。それに人の為に命をかける覚悟など持てません」
ましてや相手があのアイルなど御免だ。
しかも、都合よく忘れてるみたいだけど私が死んだのはアイルのせいだ。
許すつもりはないけど一言ぐらい謝罪があっても良いと思う。
『転生させてあげた』と恩着せがましく思われても別に私が頼んだわけではない。初めから選択肢などなかったじゃないか。全部、自分の良いように動いておいて恩を着せられても知るかと言いたい。
「あなたが守ることを望まれているのは王女殿下ですよ」
私の今の言葉が人に聞かれては不敬罪だと断じられるものになるからだろう。ユニアスから言葉に気をつけろと副音声を含ませた言葉が聞こえた。
私だって言う相手うや状況ぐらい把握して言っていますよ。まぁ、ユニアスからしたら私も見た目は子供。精神年齢は大人でも。子供とは時に無邪気にとんでもない爆弾を落とすからね。ユニアスが注意を促すのも分かる。
「貴族は王族の玩具ではありません。騎士団長様、自分の命をかけるんですよ。ならば私はかける相手ぐらいは選びたいです」
敢えてユニアスの言葉を無視し、自分の意見を述べたせいだろうか。ユニアスがかなり驚いている。
「‥…そうですか」
何とか絞り出した言葉のようだ。
「先生、どなたからか私が騎士団長になる話を聞いたのですか?」
まぁ、出所の見当はついている。
「王女殿下と陛下から直接聞いた。それに城内の侍女たちも噂していました」
城内の侍女はアイルの妄想だと分かっているけど私の嫌がらせも兼ねてわざと噂を広めているのだろう。
「陛下は乗り気なのですね」
「はい」
アイルのお気に入りで常に傍に居させたいと思っているかもしれない。それに私を指導しているのは自分の信頼が最も厚い騎士団長だ。
もちろんアイルの護衛にはちゃんとした人を就かせるだろう。それとは別に一人ぐらいは多少、対応できる人を傍につかせたいと考えているのだろう。不徳者に対して全く歯が立たなくても盾になれる人が。それがアイルの友人(断固拒否するが)に居れば安心というわけだ。
「私はお飾りの騎士に仕立て上げられるかもしれないのですね」
自嘲気味に言ってしまったのは許してほしい。もういい加減、自棄を起こしそうなのだ。
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