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6.専属侍女の仕事は‥‥
「あなたが私の専属侍女になってくれて嬉しいわ」
無邪気に笑うアイルの顔面を何十回も頭の中で殴る姿を想像して湧き上がる怒りを外に逃がす。
「王女殿下、これからよろしくお願いします」
「もう、ミキちゃん。何度も言っているでしょう。そんな堅苦しい呼び方は止めてよ。私たち、お友達でしょう」
「王女殿下、私の名前はレイファです。ミキではございません」
こんな奴と仲良くするのは無理。生理的に無理。
何とか仲良くならずに、でも情報だけ手に入れるという都合の良い方法でいこう。できるかは分からないけど。相手はマヤ。頭がお花畑の馬鹿女。やりようはいくらでもあるだろう。
「それと、ミキちゃん。髪の色は茶色が良いって私言ったじゃん。何で金髪にしてるの」
「あっ」
えっと、つまり私は今後ずっとマヤの希望通り髪を染め続けないといけないの。
「もう、仕方がないな。はい、染粉」
「‥‥‥ありがとうございます」
はっ。これで親切心のつもりなんだからマジでふざけてる。
「王女殿下、私は新入りのレイファに王女宮の案内と仕事について教えていかなければならないのでいったん失礼します」
侍女頭であるミランダに促されて私は染粉を持ったまま踵を返した。
「あらっ、駄目よ。ミキちゃんは私のお友達だから、これからずっと私の相手をするのがお仕事なの」
「ですが」
「侍女の仕事は今まで通りあなた達がすればいいでしょう。さっ、ミキちゃんはこっちに来て」
「えっと」
ミランダの様子を伺うとミランダはため息をついて私に王女の元へ行くこと、説明と本格的な仕事は明日からと言ってミランダだけ部屋を出て行った。
可哀そうに。
急遽、来ることになった私に教える時間を割くために仕事の段取りをしていただろうに、それが台無し。そしてまた明日、新しく仕事の段取りを考えないといけないのだ。
私はアイルに言われた通り、髪を染めた。茶色の髪になった私を見てアイルは満足そうに笑った。
「これからは、ずっとその髪でいてね♡」
「‥‥‥」
何でこんな奴に好かれてるんだろ?
いや、好かれてるのかな?
「王女殿下、今日はどのように過ごしましょうか?」
「この世界って娯楽がなさ過ぎるのよね。そう思わない」
自分で選んだ世界だろうが。
「ちょっと早いけど乙女ゲームを進行させてもいいと思うのよね。ほら、乙女ゲームって学園に入学してからが始まりじゃない。ヒロインの幼少期なんて冒頭にちらっと流れるだけだし」
知らねぇよ。
でも、乙女ゲームの情報は有り難い。
私は作り笑いをしてアイルに話を合わせることにした。
でも自分がミキであることも転生者であることも言わない。
自分から断言はしない。
逃げ道を作っておく。アイルが勝手に勘違いをしただけだと。
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