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頭の位置が下がった気がして目が覚めた。
目蓋を開くと端正な横顔が見えた。
ソファーで寝ていたそらの隣に松浦が座っていた。
目蓋の上に掌を乗せ、ソファーの上で体を起こす。
「起こしたか」
天井の灯りに目をしばしばさせ、伸びをする。
「何時?」
「7時だな」
そらは昼食の後、獣道を広げる作戦を続行した。多分夕方、になり暑いせいか頭も体もフラフラになって今日の仕事を終了とすることにした。
玄関に立って成果を眺めて満足すると、よろよろと中に入り、暑い体を冷やすため水のシャワーを浴び、また洗濯機から適当に服を出し着替えた。
そして冷蔵庫のペットボトルの水を飲み干すとソファーに倒れこんだ。
そして気づいたのが今現在。
寝ていたと言うより、気を失ったようだ。
「あちこち刺されたな」
眉間に深い皺を寄せた松浦の視線の先を辿り、
「あぁ」
と、呻く。
大きいため襟ぐりがら胸元が覗けていたが、首から胸にかけてあちこちポツンポツンと赤い斑点。気づいた途端に痒くなってきた。
「虫除けスプレーしたんだけどな」
言ってから気付く。
シャワーを、浴びた後再びスプレーしなかった。
それに長袖から着替えたせいか、腕のあちこちに草で切ったらしく細い赤い線が走っている。
松浦も気づいたらしく、
「痛いか?」
と指でその線をなぞる。
ピリッと痛みが走る。
「ったりまえだろっ」
手を振り払った。
松浦はそれに気を悪くもせず、立ち上がって薬箱を持ってきた。
その中から痒み止めの薬をそらに手渡し、自分は腕の切り傷にチューブから軟膏を塗っていった。
そらはしぱらくその様子をぼんやり見ていたが、松浦にちらりと目線を寄越され、蚊に刺された所に痒み止めを一つ一つ塗りはじめた。
「飯は?」
「昼間弁当貰った」
「夜は」
「食ってない」
そう言うと、松浦はキッチンに行き奥のほうでごそごそして戻って来ると手にはカップ麺。
「そらは弁当食え」
そう言ってカップ麺のビニールを剥き始めた。
「いーよ。それあんたのだろ」
弁当を松浦の方へ押しやり、代わりに松浦の手からカップ麺を奪う。
「オレこっちにする」
松浦はそれに逆らわず肩をすくめると、キッチンからポットを持ってきて蓋を開けた麺の器にお湯を注いだ。
ポットをキッチンへ戻し、冷蔵庫からお茶のペットボトルを2つ持ってきてテーブルに置く。
割り箸を割り、そらは期待するように松浦の顔を見る。
「まだ早い」
そう言うと不満そうに口を尖らせる。
松浦はそれには反応せず、弁当の蓋を開けた。
昼にそらが食べたのとは中身が違っていた。
そらの腹の虫が鳴いて、そらはカップ麺の蓋を勢いよく剥がした。
「おいっ、まだ」
「いーの、固めが好きなんだから」
そう言って啜りはじめた。
黙ってその様子を見ていたが、弁当の野菜の肉巻きを一つカップ麺の蓋の上に乗せた。麺を啜った格好のまま目だけ松浦を伺う。
松浦は顎をしゃくり、弁当を食べ始めた。
口に入っていた麺をごくりと飲み込むと、その蓋に乗った肉巻きを割り箸で挟んだ。
広角を少しだけ上げ、それを一口で頬張る。
少し味の濃い肉巻きは疲れた体にとても美味しくて、気持ちを上向きにさせてくれる気がした。
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