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そらは目を覚ました。 ぐっすり眠ったらしく、頭はすっきりしている。 広いベットにはひとり。 やっぱりあの人ここでは寝てないんじゃないんだろうか。 部屋着の裾から手を入れ、ポリポリと掻く。 昨日蚊に刺されたところがあちこち赤くなっていた。 他人の気配があると眠れないので、今まで彼女とも朝まで一緒にいたことはない。 眠ってしまった後でも 誰か近寄ってきたら目が覚めるはず。 ソファーにでも寝てるのか。それとも仕事部屋でか。 居候は自分なのに、と申し訳ない気がする。 ベットを降りようとして、体の節々が痛くてピクリと動きを止めた。 「なんだっけ?」 あぁ。筋肉痛かとすぐ思い当たる。 久しぶりにあんなに動いたから、そらの身体中の筋肉がビックリしているんだろう。 「続けたら平気になるかな」 庭の草刈りもやらなくてはと、変なやる気が湧いてくる。 それが前向きではなく逃げだと言うのは、そらには分かっていた。 でも今はそうすることしかできない。 そんな気持ちと筋肉痛の全身を振り切るように寝室を出た。 「起きたか」 出た途端声を掛けられる。 勿論松浦だ。 松浦がテーブルに朝食を並べていた。 そらは返事の代わりにぺこりと頭を下げ、顔を洗いにバスルームに向かう。 洗面台の鏡に写った自分の顔を見て、眉間に皺を寄せた。 そしてクスリと笑う。 「なんであんなに深いんだろう」 そう呟いてバシャバシャと顔を洗った。 ダイニングに戻ると松浦の前の席に座る。 そして手を合わせ、 「いただきます」 黙々と食べている松浦をチラリと伺う。 松浦は眉間に皺を寄せ目玉焼きに添えたソーセージを口に放り込んだ。 「不味いの?」 思わず言ったそらの言葉に、松浦は手と口を止めた。そのままの顔でそらを見る。 「オレは美味しいけど、ここに皺寄せて食べてるから不味いのかと」 そう言ってそらは自分の眉間を人差し指で突っつく。 松浦は口を再び動かし飲み込むと、 「不味くはない。ただ栄養を摂取しているだけだ」 「摂取って」 「摂取しないとエネルギー不足で仕事ができなくなる」 それだけ言うと、また黙々と食べはじめる。 食べるのは栄養を取って仕事をするため? 生きるためではなく? 食を楽しむためではなく? この人は家族や恋人、友人と食事をしたことがないんだろうか? そこまで考えて、そらは苦笑する。 自分だってこの半年は自分以外の人と食事をしていなかったことに気づいたから。 この半年で体重は5キロ位減っていた。食事はしていたのに。生きるための栄養は取っていたはずなのに…
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