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部屋に戻ると、へなへなと崩れ落ちました。
あぁ、これでジェイコブ様はマリアンヌの婚約者となられたのですね……
瞳の奥が熱くなり、鼻の奥がジーンと痛みます。
ジェイコブ様のことは、幼い頃から学友として存じ上げておりました。決して容姿が優れているとはいえませんし、勉学が優秀なわけでも、剣術の腕がたつわけでもありませんけれども、いつも笑顔溢れるジェイコブ様のことを密かにお慕いしておりました。
3ヶ月ほど前にお父様から婚約の話をお聞きした時には、どれだけ心が浮き立ち、舞い上がったかしれません。
それなのに……私は、いつもジェイコブ様とお会いすると緊張のあまり何も話せず、笑って話しかけてくださっても無愛想なお返事しかできず、無表情で……ようやく口を開けば、出てくるのは無機質な言葉ばかり。
こんな私を婚約者にしたくないのは、当然ですわ。
いつも殿方から愛されるのは、美しく、愛想が良い妹のマリアンヌ。
マリアンヌだけにはジェイコブ様を紹介したくなくて避けていましたのに……今日から夏季休暇に入り、マリアンヌが寮から戻っていただなんて、迂闊でしたわ。
それから、ジェイコブ様はマリアンヌに会うために毎日訪ねてくるようになりました。私と会うのは学校がほとんどで、それも挨拶を交わすだけで、外出など週に1回もないぐらいでしたのに……
「リリーお姉様、これからジェイコブ様と一緒に湖にピクニックに行くのですが、お姉様も一緒にいらっしゃらない?」
「私は結構よ。どうぞおふたりで楽しんできてくださいませ」
「ぁ、リリー……」
声をかけようとしたジェイコブ様に背を向け、歩き去りました。
ジェイコブ様とはこれから姻戚となり、良好な関係を築いていかなければいけませんのに……胸が痛み、ジェイコブ様のことをまともに見ることができません。
このままではいけないと、分かっていますのに……
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