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これからイルアード侯爵の元に嫁ぐまでに、ジェイコブ様と顔を合わせるのが辛いですわ。もういっそ、今すぐにここから逃げ出してしまいたい……
そんなことを考えながら窓辺から月を眺めておりますと、ジェイコブ様が馬に乗って駆けてきました。
慌てて窓を開けます。
「まぁっ、ジェイコブ様! こんなお時間にどういたしましたの!?
マリアンヌでしたら、西側の部屋ですわ。でも、こんな時間に女性を訪問するだなんて……非常識ですわ」
まさか……夜這い、でしょうか。でも、あのジェイコブ様に限って。
それとも、そこまで思い詰めるほどにマリアンヌを愛しているということでしょうか。
そう考えて、心が暗闇で覆われました。
「明日の朝、出直してくださいませ」
ピシャリと窓を閉めようとしますと、ジェイコブ様が叫びました。
「待ってくれ!
リリー、イルアード侯爵と婚約し、遠方に嫁ぐというのは本当なのか!?」
「ぇ……なぜ、それをジェイコブ様がご存知ですの?」
「マリアンヌが早馬で知らせてくれたんだ」
私を慕っているマリアンヌは、なんとかして私を引き留めようと、ジェイコブ様にまでお願いしたのでしょう。私のジェイコブ様への想いなど知らず……知らぬこととはいえ、残酷ですわね。
ジェイコブ様だけには、知られたくありませんでしたのに。
「えぇ、そうですの。
これで、ジェイコブ様に婚約破棄された私も、晴れて婚約して侯爵夫人となりますわ」
「ック……」
ジェイコブ様が顔を歪めました。伯爵家の二番目の子息であるジェイコブ様よりも格上の縁談を私がお受けしたことが、彼のプライドを傷つけたのかもしれません。
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