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羽化
「私、羽化するの!」
プリュイは興奮で頬を染め、幸せそうに笑いながら僕にそう告げた。
物心つく前からずっとそばにいた、幼なじみのプリュイ。これからもずっと、一緒にいられると思っていたのに。
「選ばれたのよ! すごいでしょう? ホウオウ様の羽根になれるなんて……ああ、夢みたい!」
「いつ……?」
「十二日後! 羽化に選ばれてから、年齢と同じ日数を特別な祈りを捧げて過ごす決まりなんですって」
彼女は羽化の作法について書かれているという古びた本を大事そうに胸に抱きしめ、長い髪を揺らす。その表紙に描かれたホウオウ様の勇姿が、僕には、プリュイを奪う悪魔のように見えた。
ホウオウ様はこの国の守り神だ。普段は国で一番高い山のてっぺんで、虹色に輝く美しい羽を休めている。その羽根の一枚一枚は、国中から選ばれた穢れのない処女が羽化したものだという。
女の子たちはみんな、ホウオウ様の羽根になりたいんだ。だけど、どうしてそう思えるのか、僕にはよく分からない。女子だけが呼ばれる集会で、何か吹き込まれているんだろうか。
プリュイは羽化に選ばれた翌日から、学校に来なくなった。その日までにいろいろな準備や儀式があり、朝から晩まで忙しいらしい。
プリュイの席は美しい花とリボンで飾られ、友達も先生も、それを羨望の眼差しで見つめている。誰一人として、プリュイとの別れを悲しんでいる人はいない。
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