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「よお、ガキ! なんだ、なんだ? 今日もシケたツラしやがって! さては試験結果が振るわなかったか? 好きな女に振られたか? 振るわなかったのか? 振らなかったのか? ははっ、気にすんなって。そういうときはな、書を読むんだよ。あんたの悩みは、誰かがすでに悩んでたことなんだぜ。それとも、あんたのことだから、もう読んでるか? 悪いな、余計なことを言っちまった」
下校を待ち構えていたかのように、その男は現れた。
田畑政治を連想してしまうマシンガントークを連発するメーデル・ハーデル。彼の最もすごいところは、自転車に乗った僕に併走した上で息を切らさずに喋り倒しているところだ。
きょろっと大きな目に、うさぎのような前歯、いつも着物。名前は知らない。僕は心の中で勝手に「メーデル・ハーデル」と呼んでいる。面と向かって呼んだら失礼だから、口に出したことはない。
でも、今までの話から推察するに、多分、彼は河鍋暁斎だ。幕末と明治時代に人気を博した画家。明治22年没。
有り体に申し上げると、彼はすでに死んでいる。
なぜ河鍋暁斎の魂が、こんな田舎でふらふらしているのかは、不明。
明らかなのは、僕を気にかけてくれていること。
キレキレのマシンガントークを繰り出す彼が、僕は嫌いではない。一方的に喋くり倒しているようで、僕のことをよく見ている。
僕にとっての彼は、友人のメーデル・ハーデルである。
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