がぁこちゃんねるっ!

1/8
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ

がぁこちゃんねるっ!

 止まることを知らない。  戻ることも知らない。  時間も、川の流れも、声も。 「あいつ、また学年2位だってよ」  絶妙な距離から投げられた言葉を、僕は文庫本でガードした。  複数人で悪口に花を咲かすには最適で、悪口を言われた本人は言い返しづらい絶妙な距離。彼らはそれをよく知っている。  昼休み。1学期の期末試験が終わり、夏休みを待つばかりのだらけた時期。僕達中学2年生は、1年生のような不慣れもなく、3年生のような受験勉強もない。 「ガリ勉メガネのくせに、弱っちいな」 「たまには下剋上してくれないと、退屈で死にそうだよ」 「退屈といえば、あの動画知ってるか?」 「動画?」  僕達の話は終わり、ひとりが持ち込み禁止であるスマートフォンを出し、複数人でスマートフォンの画面を覗き込む。まるで、興味本位でパンドラの匣を開けようとしているようだ。 「『がぁこちゃんねるっ!』……だせぇ! ネーミングセンスなさすぎ!」 「だろ? 弾き語り動画みたいなんだけど、誰もいないし歌も聞こえないし、景色を映しているだけ。でも、人によっては見えるんだって。動画に人が」  彼らの肩越しに、僕もスマートフォンの画面を覗いてみた。眼鏡を正して、目を凝らして。  動画の中では、お坊さんみたいな人がバリトンボイスで何かを朗読していた。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!