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がぁこちゃんねるっ!
止まることを知らない。
戻ることも知らない。
時間も、川の流れも、声も。
「あいつ、また学年2位だってよ」
絶妙な距離から投げられた言葉を、僕は文庫本でガードした。
複数人で悪口に花を咲かすには最適で、悪口を言われた本人は言い返しづらい絶妙な距離。彼らはそれをよく知っている。
昼休み。1学期の期末試験が終わり、夏休みを待つばかりのだらけた時期。僕達中学2年生は、1年生のような不慣れもなく、3年生のような受験勉強もない。
「ガリ勉メガネのくせに、弱っちいな」
「たまには下剋上してくれないと、退屈で死にそうだよ」
「退屈といえば、あの動画知ってるか?」
「動画?」
僕達の話は終わり、ひとりが持ち込み禁止であるスマートフォンを出し、複数人でスマートフォンの画面を覗き込む。まるで、興味本位でパンドラの匣を開けようとしているようだ。
「『がぁこちゃんねるっ!』……だせぇ! ネーミングセンスなさすぎ!」
「だろ? 弾き語り動画みたいなんだけど、誰もいないし歌も聞こえないし、景色を映しているだけ。でも、人によっては見えるんだって。動画に人が」
彼らの肩越しに、僕もスマートフォンの画面を覗いてみた。眼鏡を正して、目を凝らして。
動画の中では、お坊さんみたいな人がバリトンボイスで何かを朗読していた。
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