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冷凍庫の冷気みたいな午後の寒風が冬を一層冷やしている。この寒いのに上がTシャツ一枚、下も半ズボンときている。路上生活の上にそれだからなのだろうか、霜焼けのように肌が顔と言わず手足と言わず赤く腫れ上がっている。そのつぶつぶぶつぶつざらざらした赤い皮膚が普段、天使のように可愛い子供たちを悪魔にする。つまり路上生活者は子供たちに赤い下膨れの化け物のように思われ、きもい、うざい!どっか行け!なぞと酷いことを言われたり小石を投げつけられたりするのだ。それを目の当たりにして、悲惨だ、可哀そうだと同情した石田は、翌日、古着を何着か携えて公園へ行き、路上生活者が住んでいる青テントの前にやって来た。
「あのー、いらっしゃるならちょっと出て来てくれませんか」と石田が言うと、「立ち退き要請ですか?」と言って顔や腕をぼりぼり掻きながら路上生活者が出て来た。矢張りTシャツに半ズボン姿で晒した肌が残らず赤く腫れ上がっている。
「違うんです。あの、老婆心ながらその恰好では寒いんじゃないかと思いましたから服を持って来てあげました」
「あの、お心遣いは有難いですが、寒くないですから結構です」
「えっ、寒くない?服いらないんですか?」
「ええ」
「何で?」
「テントの中でアタマジラミたちと一緒に暮らしてますから」
「はぁ?」
「いやね、アタマジラミがテントの中にうじゃうじゃいるんですよ。それはもう人間の為の住み家だかアタマジラミの為の住み家だか分からないくらいにね。そうなると、人間さまが痒くなるでしょ」と路上生活者が急にタメ口になったので、「そりゃそうだねえ」と石田もタメ口になった。
「そうなると、人間というものは良くしたもので、痒いな痒いなと思ってあちこち掻きまくってる内に自然と掻いたところがじわーと熱を持ち出しましてね、全身がぽかぽかと温かくなって来るんですよ」
「それで体中、赤く腫れ上がってる訳?」
「ええ」
路上生活者は赤い蜜柑のような顔で天衣無縫に微笑んだ。
石田はその余りにも飾り気のない無邪気で素朴な笑顔を見て原始人に会ったかのような清々しい感動を覚え、その顔に癒され、心の中が温かくなるのだった。
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