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ぼくのいちばんだいきらいなあいつ
ふと気がつくと俺は、仰向けに寝ていた。ちゃんと布団で。
額には濡れタオルが乗せられている。熱さましシートにばかりとらわれていて、こういう原始的な方法を思いつかなかった。盲点、というやつだ。
さすがに無意識のうちにこれを自分で用意するほど俺も器用じゃない。ということは。
「ゆき……?」
見上げた視界に、雪の青白い顔がある。さすがのこいつも、人が目の前で倒れたら放っておけなかったんだろうか。
雪は俺の額に乗せていたタオルをよけ「すぐぬるくなるな……」と呟いている。
俺もこれはちょっとやばそうな熱だなと思っていた。そう考える思考すら、ふつふつ煮え立つ脳味噌の中で長く留まってはいられない。
「――しょうがないな」
不意に、雪が呟いた。
「約束、守れなくなるけど」
約束? 雪と俺が? いったいなにを。
訊ねる気力はもうなかった。
「ごめんな」
額に、ひんやりとしたものが触れる。濡れタオルよりはるかに冷たいそれは、雪のてのひらだった。
「気持ちいい……」
思わず呟くと、雪がふっと笑う。「だろ?」とでも言いたげに。そんな態度は、珍しくちゃんと兄貴じみていた。
どうして今日に限ってこんなにやさしいんだろう。
どうして雪のてのひらがこんなに冷たくて気持ちいいんだろう。
疑問は次々わいてくるけれど、熱のせいで言葉にはできないまま俺は眠りについた。
〈約束〉と〈ごめんな〉が、どこか遠くでこだました。
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