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そこに映るのは、見慣れた自分ではなかった。
伸びた背丈、締まった身体、肩には辛うじて掛かるが短い黒い髪、太くなった首。
そこに映るのは、見慣れない男だった。けれども、鏡だ。つまりは、己だ。
「何……これ……」
驚きのあまり口が開いて中が見える。
至って普通の歯…だが上下4本の尖った歯、犬歯がまるで絵の具の黒色のように真っ黒に染まりあげている。
犬歯と呼ぶにはあまりにも異質で、そして尖りすぎていた。犬歯というより肉食獣の牙と言うべきだろうか。
利き手とは逆の左手首には見たことないスマートウォッチのような機械。
こんなもの買った覚えもなければ付けた覚えもない。
「……思い出そう……俺は泉谷 伊織……19歳の女……確か記憶が残ってる昨日の夜までは飯食ってゲームして寝て……なんでこうなってる……?何これ夢?それとも異世界転生……?」
そう、一人称こそ俺だが自分……泉谷 伊織は体も心も生粋の女で、ゲームやアニメをこよなく愛するオタク。
自分で言うのもあれだか少しぽっちゃりめの、肉付きがモデルなどに比べると良すぎるほどで、髪はロングヘアの茶髪。
一人称は男趣味や男友達の多さから移ったものであることと、自分の割と適当な性格に合うことから「俺」を使っている。
……自分を忘れたわけじゃない、なのにこの状況になるまでの経緯や記憶が全くない……今は何年何月で、何が起きているのか……自分がどうなったのか……何も思い出せない。
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