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けれど、そんな観察や疑問を思い浮かべる事は無理矢理中断させられる。誰かと肩がぶつかる。
「あ、ごめんなさ……ぃ!?」
その後己の横から聞こえる呻き声、伝わる鉄の匂い、伸びてくる腐ったような、傷まみれで皮膚は垂れ下がり肉は剥き出しで所々骨が見え虫が集りとんでもない悪臭を放っている人の手。
視線を横に向ければそれが当たり前のように、そして非現実的に。
動く屍……所謂、ゾンビというものがいた。
「ぃ、いぎゃぁあああっ!?」
反射的に、それでいて当然の様に自分は相手の頭を掴み、壁に叩きつけて文字通り頭蓋を粉砕した。
びしゃりとよく熟れたトマトのように飛び散る赤い液体と肉片、腕に纏わりつく生々しい感覚と強い不快感と、ほんの僅かな高揚感が自分を包んだ。
「何これ……なにこれ何コレなにコレ!?」
パニックになり自分の体を見る。最も血に塗れた腕はタトゥーのような、機械の亀裂のような、不気味な黒い線が浮かんで爪は尖る。
さっきの牙といい、人の頭を軽々粉砕する力と言い、この腕の見た目といい、まるでモンスターのよう。
そして遅れて襲い来るのは高揚感を抱く自分への嫌悪と、例えゾンビであったとしても人を殺した罪悪感。
「ぅ、ぐ……ぉえ……ぇ゛っ……」
色んな感情が入り交じり、キャパオーバーした脳は吐き気を誘発し耐え切れず屍の隣に嘔吐する。
吐瀉物の中にはまだ形や色が残る野菜やらが見える。
あ、食事はちゃんとしてたんだ。
時間が経つとゆっくりと腕の黒い線は消えていく。
キャパオーバーしたせいか変なところに気付く自分と、体に纒わり付く嫌悪感や嘔吐する感覚があまりにも生々しく……夢ではないと痛感する。
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