primula【青春のはじまりとかなしみ】

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浅間とは方向が反対なため、校門を出てすぐに別れた。 話によれば学校からかなり近いらしく、5分も歩けば着くそうだ。 少し羨ましいが、近ければ近いで色々面倒もあるのだろう。 父親の傘を間違えて持って出るくらい朝バタバタしてしまうのは、近いゆえの油断というものかもしれない。 ……傘。 そういえば父さんは、どんなの使ってたっけ。 父さんのものは母さんが全部取ってあると思うけど。 使わないものを出しておいても却って不便なため、どこかに仕舞ってあるはずだ。 見えないと忘れてしまうものなのか。 父さんがさしていた大きい傘も、左手にしていた腕時計も、よくしめていたネクタイも。 ぼんやりとしたシルエットとしてしかイメージできない。 それはどこかこの雨空に似ている気がした。 強い雨が降り注ぎ、視界が(けぶ)る。 梅雨の雨はもっとしとしと降るものだと思っていたけれど、これは下手すれば嵐になるかもしれない。 風も強くなってきた。 ……そんな中 ふと家の近くの商店の軒下に目が止まる。 豪雨でグレーの視界の中で、そこだけが妙に鮮やかに見えた。 スラッとした、白いブラウスの人影。 「……桜」
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