primula【青春のはじまりとかなしみ】

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「え、あ、お兄ちゃん!」 桜が軒下で雨宿りしながら、ひっくり返った傘をガチャガチャやっていた。 この風で傘が壊れてしまったらしい。 そのせいで雨に打たれたのか、体が少し濡れている。 黒い髪が水をまとい、つやつや輝いて見えた。 ……綺麗だ。 (……て、オレは何を考えているんだ) 雨に濡れた相手に対して失礼なこと。 というか、桜だし。 桜にこんなこと思うなんて。 オレは本当に、……最近どうかしている。 桜は幼なじみで、ガキで泣き虫で少し鬱陶しい存在で。 それで……それだけな、はずなのに。 ──結局、桜の傘は骨が折れて使い物にならなくなっていた。 本人は雨の中を突っ切ろうとしていたが、さすがにこの雨では忍びない。 オレの傘にいれて送っていくことにした。 どうせ通り道だし、ここからならそんなに遠くない。 桜は少し迷ったようだったが、やがてうなずきオレの横に入ってきた。 「………」 「………」 ひとつの傘の下。 桜はオレの隣で少しうつむきがちに歩いている。 いつもピーピーとうるさいくせに、珍しく黙りこんで何も話さない。 沈黙に雨の音がにじむように響いた。 ……静かな桜は、妙に儚く見える。 細い肩に、サラサラした長い髪。 白い肌はこの薄暗い雨空の下では青白くさえ思えて。 あり得ないことなのに、目を離すと消えてしまうんじゃないかと胸が苦しくなった。
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