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オレは、傘を気づかれないようにそっと桜の方へと傾ける。
細い肩がぬれないように。
桜が雨の中に消えないように。
消えるわけないのに……
オレは何をこんなに心配しているのだろう。
いや。
一体何をこんなに恐れているのだろう。
「……桜」
「なに?」
呼び掛けると、くるんとオレを振り返る桜。
いつもと全く変わらない呑気な雰囲気。
「テストどうだった」
「え、えーと……まあまあかな。国語は嫌いじゃないし。音楽と家庭科はそんなに難しくなかったし」
目をくるくる動かし、少し語尾を伸ばしてしゃべる。
あどけない、子供みたいなしゃべり方。
桜の、しゃべり方。
普段は鬱陶しいとはね除けてばかりいたけれど
今はなぜか安心する。
もっと聞いていたい。
雨の音をその声でかき消してほしい。
……なんて。
どうしてこんなことばかり考えてしまうのだろう。
●○●○●○
その後。
桜を家に届けたのはいいが、晴香さんに呼び止められ、家にそのまま寄ることになってしまった。
リビングに入ると、最近飼い始めたという子猫がオレを迎えてくれた。
イカ玉というなかなか個性的な名前の白い猫。
人懐っこい性格のようで、初対面のオレに臆することなく体をすりよせてきた。
…………可愛すぎる。
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