primula【青春のはじまりとかなしみ】

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「は、はい!」 桜はビクッと身体を震わせる。 夢から現実に戻ってきた……みたいな反応だ。 「さっきからぼーっとしてばっかりで全然勉強してないだろ。テスト欠っても知らねえからな」 そう言うと、しゅんと肩を落とした。 「……ごめんなさい。ちょっと考え事してて」 「考え事?」 「…昔のこととか」 「……昔……」 「昔も、こうしてお兄ちゃんと勉強したな……って」 「………」 桜が言ったのは、どの"昔"かはわからない。 オレたちは幼なじみ。 一緒に勉強なんて、何度もしてきた。 だけど今オレが思い出したのは、3年前。 父さんが死んで、母さんは忙しく、家を空けることが増えて。 学校が終わると、桜の家にお邪魔する日々が1ヶ月ほど続いた。 いろいろ変わってしまう気がして怖かった。 でも怖い思うことは、申し訳ない気がした。 父さんや母さんや。桜の家族にも。 だけど そのときも、オレの向かいで宿題を解く桜は変わらなかった。 いや、彼女なりに気を使ってはいただろう。 でも、少し甘えたような笑い方も、算数が苦手ですぐに手が止まるところも、消ゴムをしょっちゅう床に落とすうっかりも。 変わらなくて。 その変わらなさに、オレはたぶん安心していたんだ。 だから、あのとき、オレは…… 「………はあ」 問題集をパタンと閉じた。 桜が少しだけ驚いたような顔をする。 「……ちょっと休憩するか。集中できないなら無理にやっても仕方ねえし」 「え、いいの?」 休憩と聞いて桜の顔がパッと輝く。 「じゃあ、お話しようよー」なんて身を乗り出してきた。 ……全く現金なやつ。 ぼんやりしているとき、なにか悩んでいるのかと思ったが、どうやら心配いらないようだ。
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