primula【青春のはじまりとかなしみ】

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「……そうだ、お兄ちゃん。海ちゃんがもうすぐ結婚するのは知ってる?」 休憩中。 会話の流れで、ふと桜がそんなことを言う。 「……いや、知らなかった」 初耳だったので正直にそう答える。 「……えへへ、結婚式楽しみだな。海ちゃん綺麗なんだろうなあ」 自分が結婚するわけでもないのに、幸せそうにニヤニヤする桜。 そんな桜の様子に、小さい頃の彼女の姿が重なってみえる。 ───みて、おにいちゃん…… あれは、いつの頃だったか。 『……おにいちゃん、みて。きれいな指輪でしょ?』 きらりと光る、サクラの形をした指輪。 『ママの指輪。でも、さくらがもらったの。こうして、おねえさん指にはめるとね、結婚の指輪になるんだよ』 幼い桜がオモチャの指輪を薬指にはめて、得意気に聞きかじりの知識を披露する。 『さくら、おおきくなったらパパと結婚するんだー。パパのこと大好きだもん』 なんて、胸を張って言う桜。 父親とは結婚できないと言ってやろうかと思ったけど。 ついこの前それを言って桜を泣かせて、母さんに叱られたことを思い出したので、口をつぐんだ。 『この指輪、さくらのたからものにするの』 桜は指輪をよほど気に入ったのか、それからどこへ行くにもつけていくようになった。 近所で遊ぶときも、遠くにお出かけするときも。 桜の小さな手には指輪が光っていた。 そして、それがある日小さなトラブルになる。
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