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「ってえ……!」
押されたやつは尻餅をつく。
でもすぐに起き上がると、オレの胸ぐらをつかみ、殴りかかってきた。
顔に当たり、少し唇が切れる。
そこで離れた場所にいた母さんたちが気づいてこっちにやってきた。
「ちょっ……望!どうしたの、なにやってんの!」
「大丈夫!?」
親が入ってきたことで相手のグループも勢いを失くし、あっという間に事態は終息する。
結局、喧嘩両成敗のような形で互いに(本心はどうあれ)謝っておしまい。
母さんがオレの切れた口元にバンソウコウを貼ってくれた。
オレは桜の方を見る。
桜は晴香さんにしがみつき、声をあげて泣いていた。
「ママぁ……!こわい……こわいよぉ……」
「……!」
その泣き声が胸に痛い。
指輪を取られたときより、からかわれたときより、ずっとずっと涙をこぼし、大きな声で泣く桜。
オレはそんな桜の姿に
自分がしたことは間違いだったのだと思い知った。
泣かないでほしいと思っていたのに。
泣かせないために、したことだったのに。
それなのに、結局なによりも泣かせてしまって。
胸がギュッと苦しくなって声が出ない。
まだ子供だったオレは、このときの気持ちを上手く理解出来なかった。
ただ。
桜をこんなにも泣かせたのは自分の行動だと思うと
こわかった。
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