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「……彼女がいる人にちょっかいかけられているというか……。それが困ってるというか……。普段は優しい人なんだけどね」
「………」
浅間から聞いていたまんまの事実。
オレは桜に気づかれないよう、小さくため息をついた。
……桜は正直言ってかなり鈍い方だと思う。
だから、男から自分への好意になかなか気づかない。
それで桜自身助かっている部分もあるだろうし、逆にいらない嫉妬を買ったりもする。
その桜がこうしてハッキリ自覚しているのだから。
美作の態度は誰から見てもあからさまなんだろう。
ただ、ここで大事なのは桜の気持ちだ。
桜本人が嫌ではないなら、浅間もオレもするべきことはない。
でも桜の表情をみる限り、満更でもない……なんて風にはとても思えなかった。
実際「困っている」と言っているし、美作を嫌ってるわけはなくとも、どうしていいかわからないのは事実だろう。
「で、でも桜の勘違いかもしれないし、気にしないで」
重くなりそうな空気を感じたのか、桜が誤魔化そうとする。
でもここで曖昧にされてはこの問題は解決しない。
浅間だっていつまでもモヤモヤ心配し続けるのはたまらないだろうし。
いや、浅間は関係ない。
オレが……心配なんだ。
「勘違いだとしても。お前は……嫌なんだろ」
そう聞くと、桜は少し逡巡するように視線を泳がせる。
「嫌っていうか……ちょっと怖い……かな」
──こわい。
そう呟いた声は、か細くて。
少し震えているように聞こえた。
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