primula【青春のはじまりとかなしみ】

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「わ、悪い……」 掴んだ手を放そうとすると、桜が首を振る。 「お兄ちゃん、……はなさないでいいよ」 ……どういうつもりでそんなことを言うのか。 子供の頃とは違う。 あのときは当たり前のように手をつないで一緒にいたけれど。 もうオレたちはそんな子供じゃない。 それともそう思っているのはオレだけなんだろうか。 「……桜」 確認するように名前を呼ぶと、桜は恥ずかしそうに顔を赤らめた。 触れたままの手が少しだけ震えている。 桜の手は……小さい。 指も折れそうに細くて、オレの手と全く違っている。 手だけじゃない。 桜の肩も髪も、……その全部が。 オレと全然違っていて。 小さくて、細くて、儚くて。 触れるのが……こわい。 壊してしまいそうな気がして。 だからオレは壊さないように なるべく優しく、できる限り優しく 桜の手を自分のそれで包み込んだ。 桜の手の冷たさが心配で 小さな震えを止めたくて 両方の手でそっと握る。 壊れたらどうしようなんて、馬鹿な心配をしたけれど 桜の手はもちろん壊れたりなんかしなかった。 少しずつ冷たい手が温かくなっていく。 「……桜」 呼び掛けると、潤んだような目でオレを見上げた。 知らない女の子のように見えて、戸惑った。
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