primula【青春のはじまりとかなしみ】

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「……お兄ちゃん……なに?」 ため息まじりの桜の声。 いつもの幼いしゃべり方なのに、全く違って聞こえた。 「もし、……なにかあれば言えよ」 「え……?」 「なにか困ったこととか、危ないと思ったりしたら、オレに言え」 「………」 唐突なオレの言葉。 桜が驚いたように目を見張る。 一体なぜそんなことを言われているのかわからないみたいだった。 それもそうか。 桜からしてみれば、部活の先輩が少し馴れ馴れしい……くらいの悩みなのだろう。 だけどオレはそんな簡単なことだと思えなかった。 嫌な予感がする。 なぜかと言われると上手く答えられないけれど。 強いていうなら、普段は飄々としている浅間が珍しく真剣だったから。 そして、美作の喧嘩のことを知っているから……。 ……いや。 オレは、本当はただ心配なだけなのかもしれない。 なら、どうしてこんなに桜を気にかけているのか。 幼なじみだから? 年下だから? 桜の家族にはずっと世話になっているから? それとも… 「………」 「お兄ちゃん……」 オレの態度に不安を感じたのだろうか。 桜が心配そうに目を潤ませ。 オレの手を握り返してきた。 その力は弱くて、オレの胸はまた何故か苦しくなる。
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