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窓の外に目をやると、雨は弱くなっていた。
これなら問題なく帰れるだろう。
「オレ……帰るな」
「あ、お兄ちゃん……!」
呆気にとられたような桜を置いて、逃げるようにリビングを出た。
戸惑うような瞳の色。
多分、桜からすればオレのしたことは意味不明にちがいない。
オレ自身もよくわからない。
なぜオレはあんなことをしたのか。
どうして抱き寄せようとした?
桜が心配だから?
危険がないように守りたくて?
それにしても他に方法はあるだろう。
守りたいなら、もっと違う方法はあるはずで。
なのに、オレは昔から上手くそれを選べない。
オモチャの指輪のとき
よけいに泣かせてしまったみたいに。
「……あ、望くん?」
「!」
玄関へ向かおうとすると、晴香さんに引き留められた。
晴香さんはキッチンから出てきたところだった。
「帰るのかな?もう少ししたらお茶を出そうと思っていたんだけど……」
「……すみません。雨もましになったので、そろそろ……」
「わかった。ちょっと待っててね。シャツ乾いてると思うから持ってくるね」
晴香さんはパタパタと奥に引っ込み、またすぐに戻ってきた。
紙袋を手に持っている。
「はい、これ。シャツと……あと、これ田舎から送ってきたマンゴーなの。良かったら持って帰ってね」
「あ……ありがとうございます」
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