primula【青春のはじまりとかなしみ】

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紙袋を受けとる。 晴香さんはいつものように、ほんわかと笑った。   「この前、望くんのお母さんにリンゴジュースもらったの。すごく美味しかった。ありがとうって改めて伝えておいてね」 「あ、いえ……。たくさんあるやつなんで」 母さんの実家は洋食屋をやっている。 料理人の祖父が、そこで使っているジャムやジュースをよく送ってきてくれるのだ。 美味しいのだけれど量が多いので、母さんはよく友達や職場にお裾分けしていた。 リンゴジュースがマンゴーになった…… 頭の中にぼんやりとわらしべ長者の話が浮かぶ。 そんな見当違いのオレの思考を見抜いたわけではないだろうけど 晴香さんが「ふふっ」と楽しそうに笑った。 「……望くん、いつも桜と仲良くしてくれてありがとう」 「え、あ、いえ。オレこそ……」 「これからもよろしくね」 「………はい」 そう、頷いたけれど。 晴香さんの優しい笑顔が申し訳なくて うまく目を見て話せなかった。 これからも、なんて。 桜といつまで幼なじみでいられるのだろうか。 今まで当たり前だったものが、変わっていっている気がする。 少なくとも、オレの中で確実に。
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