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瑞穂は、桜のことが好きだった。
一目惚れだと言っていた。
モテるけどサッカーばかりで彼女を作ろうとしなかった瑞穂にとっては、おそらく初恋ってやつで。
オレはそれに協力していたこともある。
友達として瑞穂を応援したかったし。
それに何より瑞穂は本当にいいやつだ。
瑞穂なら桜を大切にしてくれるし、守ってやれるだろう。
なんて、そんなどっちにとっても勝手なことを思っていたのかもしれない。
……結局、桜は瑞穂の告白を断ってしまったのだけれど。
『沢渡さん、好きなやつがいるんだって』
瑞穂はそう言って笑った。
その笑顔はいつも通り、爽やかで穏やかで。
失恋の後悔や悲哀なんてものは見えなくて……いや、見せなくしていただけかもしれないけれど。
とにかく潔い瑞穂を見て、
オレは何より自分に対して苛立ちを覚えたのだった。
瑞穂の言った、桜の『好きなやつ』を
オレはもうわかっていたから。
「……桜はアホだよな。お前を振るなんて。……もったいねえ」
「それはどうだろう。こういうのは仕方ないよ。好きな人なんか損得で決められないし」
「……」
「だから、沢渡さんが悪い訳じゃないよ。それより……」
瑞穂はオレを見て、からかうように片眉をキュッとあげた。
「望がしっかりしろよな。俺はもう沢渡さんのことは関係ないから」
「瑞穂」
「お前らの問題なんだからな」
「………」
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