いびつな、be with you

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……そうだ。 今は泣いている場合じゃない。 ここから離れなきゃ。 男子三人と正面からぶつかっても勝ち目はない。 なら、どうにか隙をついて……。 私は近くにあった椅子を持ち上げ、バリケードのように持つ。 そんな私の姿を見て、栗原先輩たちは馬鹿にしたように吹き出した。 「え、なにしてんの、沢渡さん?」 「……う、ええいっ!」 先輩たちに当たらないよう、ギリギリ離れた場所に椅子を投げつける。 ガシャーン!と大きな音が鳴った。 私の間抜けなポーズに油断していた先輩たちはかなり驚いたようだ。 みんなが投げられた椅子に注目する。 ……今だ。 椅子とは逆の方に走り、出入口へ向かう。 先輩たちの脇をくぐるようにして、すりぬける。 よし、あと少し。 私は出入口に手をかける。 いや、かけようとした。 瞬間。 「……あっ!」 栗原先輩が足をひっかけてきた。 それにつまずき、ひっくり返る。 膝を思い切り床に打ち付けてしまった。 「……っ、痛……」 「沢渡さん、ダメじゃんこんなことしたら。危ないよ」 「………っ」 しまった。 逃げそびれた。 栗原先輩が近づき、転んだ私に手をさしのべる。 「……ほら。掴まって。起こしてやるよ?」 「……っ」 掴まったら駄目だ。 わかっているのに。 痛みと怖さで身体がうまく動かせない。 駄目。 駄目だ。 何とかしないと。 なんとか……。 ………お兄ちゃん。 気がついたら、私は小さくそうつぶやいていた。 そのとき 「……桜!ここか!?」 扉が開け放たれた。
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