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そこには息をきらしたお兄ちゃんがいた。
お兄ちゃんは倒れた私を見ると、大きく目を見開く。
すぐにそばに駆け寄ってきて、私をかばうように前に立った。
「……桜。大丈夫か?」
「おに……ちゃん」
お兄ちゃんが私の手を取り、助け起こしてくれる。
あたたかくて、大きい手。
包み込むように優しく、……本当に優しく私に触れた。
……こわくない。安心する。
お兄ちゃんだと、こんなにも安心する。
そのとき、瞳から今まで堪えていた涙が溢れだした。
ポロポロとこぼれ、あっという間に顔をぬらす。
「……桜」
「……っ、うっ、うう……」
「もう……大丈夫だから」
「………う、……うん……っ」
お兄ちゃんは私の手を握ったまま、栗原先輩たちに向き直る。
栗原先輩は少し驚いたようだったが、すぐにうんざりした顔になった。
「…なにやってんだよ、栗原」
「別に。沢渡さんと話していただけだよ」
「話……?こんなとこでかよ。しかも三対一で?」
「それは……」
栗原先輩がいい淀む。
お兄ちゃんは一層強い眼差しで栗原先輩を睨み付けた。
でも栗原先輩も負けじと睨み返してくる。
「……はあ、うっざ。
つか高橋こそ何なんだよ。幼なじみだか知らないけど、別に沢渡さんがおれたちとなに話そうが関係ねえだろ。……ねえ、沢渡さん?」
「……っ」
栗原先輩が凄みのある声で私を呼ぶ。
そこには脅迫めいた響きがあった。
余計なことはしゃべるな
栗原先輩の声や瞳は、暗にそう言ってきていた。
私の身体はまた恐怖で震え出す。
すると、お兄ちゃんが握ったままの手に少しだけ力をこめた。
心配ないと、励ますように。
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