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読み込まれた台本。
美作先輩の努力と熱意が伝わってきそうだった。
「今回、結構大切な役をもらったから、今まであまり出れなかった分も頑張ったんだけど……無駄だったな」
「美作……くん……」
浅間先輩が息を飲む。
ため息まじりに台本と美作先輩を見比べていた。
「すごいね。……わたしでもここまでやっていないよ……」
そうつぶやいた浅間先輩の目に動揺がハッキリと浮かぶ。
「………」
児玉先輩は何も言わない。
台本に特に驚いた様子もない。
ただ、伏せられた目は寂しそうだった。
だからわかった。
児玉先輩は、きっと知っているんだ。
美作先輩の努力を。
「………」
美作先輩の役は、確かに出番もセリフも多い。大事な役だ。
台本ができてすぐにテスト休みになったから、私たちもまだそれほどたくさん練習ができているわけじゃないけど。
今さら違う人に変わってもらって大丈夫なんだろうか。
浅間先輩の顔を見る。
ありありと迷いが浮かび上がっている。
私と同じように感じているのかもしれない。
でも浅間先輩は美作先輩を許すことはできない。
舞台に立ってもいいとは言えない。
今回こんなことがあった以上、私のことを思って、行動してくれている。
ここでその言葉が言えるのは、きっと私だけ。
美作先輩に
信じるから、一緒に舞台に立とうと
言えるのは……
「あ、あの……私……っ」
みんなが私に注目する。
浅間先輩も児玉先輩も、……美作先輩も。
「私……やっぱり信じます……っ」
「沢渡さん?」
「いえ、その、今回のことは正直言うと信じきれないけど……でも。
…でも、もうこんなことはないと、これから私たち、一緒にいい舞台を作るんだと……美作先輩もそう思っていると。
そう………信じます」
美作先輩が目を大きく見開いた。
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