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「え、偉そうに、すみません……っ。でも、もし……その、良かったら」
小さく深呼吸をする。
「み、みんな一緒に部活しませんか?」
一瞬。
静まり返る教室。
浅間先輩は小さくうなずくと、美作先輩に向き直る。
少し固い声で
「美作くん、どうする?」
と聞いた。
美作先輩は………
少しの間、黙りこんだあと、唇をきゅっと噛んで、目を閉じて
「よろしくお願いします」
と深く頭を下げたのだった。
●○●○●○
「……あれで良かったのか、なんて」
そんなの自分でもわからない。
でもあのとき。美作先輩の台本を見たとき。
美作先輩は、少なくとも劇には真剣に向き合っているんだと思った。
初心者の私が偉そうに言えることじゃないけど、それなら一緒に演劇をしたいと……そう感じたのだ。
それに、あのときそう思ったのは私だけじゃない。
浅間先輩も、児玉先輩も。
あのまま美作先輩が舞台を去ることに抵抗があったはずだ。
そんな表情をしていた。
私は美作先輩のことをまだよく知らない。
信じていい人かは、確かに疑問がある。
でも児玉先輩との間には強い絆があるみたいだし。
浅間先輩も、美作先輩のこと少なくとも憎くは思っていない。
だったら。
信じられない理由をあげるのは簡単だけど、信じられるところを探したいと思った。
「………うん。だから、今はこれでいい。そう、決めたんだもん」
あと一ヶ月もしないうちに、演劇部の大会本番になる。
浅間先輩にとっては最後の公演になるかもしれない。
私を演劇部に誘ってくれた浅間先輩。
満足のいく舞台にしたい。
今、一番優先するのはそこだ。
だから美作先輩にいい舞台を作る意志があるなら、
浅間先輩たちも、美作先輩を仲間と思うなら、一緒に頑張りたい。
そう感じた気持ちは嘘じゃない。
そしてそれが間違いだったとならないように、頑張らなくちゃ。
それが私の演劇部で出来ることだと思うから。
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