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「こ、これは……そのっ、この英語にはさまってて、それで落ちちゃって!それで……」
「あ、そ。……こんなとこ挟んでたのか」
お兄ちゃんは特に気にする様子もなく、私の手から模試結果を抜き取る。
「お兄ちゃん……怒ってないの?」
「なんで怒るんだよ」
「いや。その、勝手に見たんじゃないか……とか」
「挟んでいたのが落ちただけだろ。……お前が、人のもの勝手に見たりしねえのはわかってるし」
「………」
「それに、まあ、見られて困る結果でもないしな」
そう言うと、お兄ちゃんは悪戯っぽくニヤリと笑った。
……なるほど。
お兄ちゃん、成績いいもんな。
模試の結果もなかなかのものらしい。
「……それより、マジでそろそろ帰ろうぜ」
「う、うん!」
私たちは並んで学校を出た。
夏の夕暮れは遅い。
まだまだ辺りは明るく、夜の気配を遠く感じる。
それでも地平線近くの空はぼんやり朱に染まり、雲は橙をにじませていた。
お兄ちゃんの白いシャツにも夕暮れが薄く映る。
その姿は夏の黄昏に溶け込みそうに見えて、綺麗だけど少し胸が痛い。
綺麗なものは、いつもどこか儚い。
置いていかれないよう、少し早足で隣に並んだ。
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