夢みる、wedding dress

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半泣きで登った木の上。 今思えば全然大した高さじゃなかったけれど、それでもかなり遠くまで見渡せた。 「わあっ……」 春のはじめだった。 眼下にはみどりの草むらが広がり、白い花が可憐に彩りを添えている。 私は初めてのその光景に見とれた。 胸がワクワクと浮き上がる。 「きれーい。おにいちゃん、あれなあに?」 「なにって……花だろ。花がさいてるだけだよ」 「あれなあに?」 「え?池だよ」 「あれなあに?」 「木だよ。見ればわかるだろ」 「あれなあに?」 「ベンチ……つか、さくらんぼしつこい」 望ちゃんがムスッとした顔になる。 その怒ったような横顔に浮き上がった気持ちがどんどんしぼんでいった。 (……さくら、いつもおにいちゃんをおこらせちゃうなあ) うつむき、情けない気持ちで足をぶらぶらさせる。 すると 「あ……っ」 履いていた靴がぬげ、下に落ちてしまった。 「あ、あー、さくらのくつ……」 「はあ、ホントどんくさいな、おまえ」 「ご、ごめっ……。あ……!」 次の瞬間。 望ちゃんは座っていた枝からふわりと飛び降りた。 そのままスタッと着地して、私の靴をひろいあげる。 ……すごい。 「さくらんぼ、おりれるか?」 聞かれたので私は首をぶんぶん横に振る。 こんなの一人じゃ絶対下りられない。 望ちゃんはわかったと言って、またするすると上まで登ってきた。
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