夢みる、wedding dress

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「おにいちゃ…」 「ふっ……ははは。おもしれー」 「えっ」 「さくら、おもしれー」 「………」 望ちゃんの笑い顔。 眉が下がって、目を細めて、とても楽しそうに笑う。 いつも不機嫌な怖い顔が多いのに。 それなのに…… 笑った顔はすごく優しい。 「はははっ……すげえてんとう虫止まるし、葉っぱって……まちがえるわけないじゃん……ははは」 「……」 顔が熱くなるのがわかった。 望ちゃんがからかうから? それとも…… 「さくら、ほら。足だせよ」 「え?」 「くつ、はかせてやるよ。さくら自分ではいたら、木からおちそうだし。トロいもんな」 「……」 ほら。またからかう。馬鹿にする。 でも…… 「ありがとう。おにいちゃん……」 私は望ちゃんの方に足を向ける。 靴下をはいた足に、四つ葉のついた靴がはめられる。 靴を、はかせてもらった。ただそれだけ。 それだけなのに、すごくくすぐったい。 「またてんとう虫とまったりして」 そう言って望ちゃんが笑う。 ……望ちゃんのこと、怖い。 すぐに怒るし、からかうし、意地悪言うし。 不機嫌な顔ばっかり。 でも、でもね。 笑った顔は優しい。 笑った顔は………好き。 あの日。 幼い私は……そう思った。
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