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「望ちゃん!」
階段を下りて玄関へ。
望ちゃんはお母さんと話をしながら待っていた。
イカ玉ちゃんが望ちゃんの足元にちょこんと座っている。
望ちゃんは当たり前だけど、制服ではなく私服姿だ。
デニムとサマーニットのシンプルなコーデ。
半袖から見える腕に、少しだけドキッとした。
中学生になってから制服姿を見ることの方が多いせいか、妙に新鮮に感じてしまう。
「お、お待たせ、望ちゃん」
「おー。じゃあ、行こうぜ」
私の姿を見ても、特に表情変えずうなずく望ちゃん。
……私の格好に感じることはないようだ。
望ちゃんはイカ玉ちゃんを撫でると、お母さんに頭を下げた。
「じゃあ、行ってきます。帰りも送りますから」
「うん、ありがとう。二人とも気を付けてねー」
「い、行ってきます……!」
お母さんがイカ玉ちゃんを抱っこして手を振る。
イカ玉ちゃんもお見送りをするように、にゃあんと鳴いた。
***
外に出ると、夏の日差しが目に刺さった。
蝉の鳴き声がうるさく響く。
まだ午前中だけど、それでもすでにかなりの暑さだ。
ただ立っているだけでも汗が流れてきそうだった。
「……ひゃー、今日も暑いねー」
私はかぶっていた帽子を深くかぶり直す。
ネコの刺繍が入った白い帽子。
これは望ちゃんからもらったもの。
以前、望ちゃんがガラスの破片で怪我したとき。
お見舞いに来ておいて泣き出した私に、被せてくれたものだ。
……望ちゃん。
気づいてくれるかな。
「……桜」
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