あなたと、sweet time

3/30

84人が本棚に入れています
本棚に追加
/259ページ
「な、なに!?」 帽子かな? それとも服かな? 髪型かな? ドキドキしながら返事をする。 「今日、……どこ行くんだ?」 「あ………」 どれでもなかった。 というか……そうだ。行き先。 今日は私に任せてと言っていたんだ。 そう。そうだ。 今日は私、このデートでやりたいことがあるんだ。 服装に気づいてもらえないくらい気にしない。 ……張り切っていこう! 「……あ、えーと……まず、バス!乗るよ!望ちゃん、ついてきて!」 「いや、バス停くらいはわかるけど……てか桜、転けんなよ」 「大丈夫大丈夫……きゃっ」 言われたそばからつまずいてバランスを崩してしまう。 すぐに望ちゃんが支えてくれて、転ばずにすんだ。 「やっぱりな……ったく」 「………ごめん」 「ほら」 望ちゃんが私の手を取った。 そのまま指先を包むように手を繋ぐ。 子供のころと違う。 いや、今までのどれでもない。 ぜんぜん違う繋ぎかただった。 望ちゃんの手の熱が、指先に伝わる。 「隣、歩けよ。ゆっくりでいいから……」 「望ちゃん……。うん……」 ゆっくり、歩く。 望ちゃんが私の速度に合わせてくれている。 ときどき、腕が、肩が、ふれあう。 その度にドキッとしたけど、お互い口に出さない。 代わりに「暑い」とか「蝉がうるさい」とか。 些細な言葉ばかりが出てくる。 でも、なんだろう。 それも楽しい。 望ちゃんの隣。 一緒に歩くだけで嬉しい。楽しい。 ……幸せだ。
/259ページ

最初のコメントを投稿しよう!

84人が本棚に入れています
本棚に追加