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動物園なんて、たぶん数年は来ていない。
家族でおでかけするときも、友達と遊ぶときも候補からは外れていた場所だった。
なんとなく子供っぽい感じがするし、屋外だから暑かったり寒かったりするし。
きっとこんなことがなければ来ることはなかっただろう。
でも……たぶん今日。
ここは私のとっておきの思い出の場所になる。
「望ちゃん、キリン!すっごい首長いー。背高いー」
「そりゃあな……」
「間近で見るの久しぶりー。あ、キリンって角が5本あるんだって!ここに書いてる!」
「ああ。いつも見えてるやつの後ろの方に2本と、目の間に1本だ」
望ちゃんはそう言いながらカメラを構える。
真剣な横顔。
私はそのまっすぐな眼差しを隣から眺める。
真夏の日差しが望ちゃんの輪郭をくっきり浮き上がらせる。
切れ長の一重の目と、黒い髪。スッとした顎のライン。
じっと見つめてしまう。
……かっこいいなあ。
望ちゃんはいわゆる目立つタイプではないけれど、綺麗に整った目鼻立ちをしている。
切れ長の一重の目は、望ちゃんのお母さんによく似ていた。
「……桜」
「なに」
「お前、どこみてんの」
カメラから目を離した望ちゃんが私を呆れたように見つめる。
「動物園なんだから動物見てろよ」
「み、見てるよ!今はその……ちょっとだけよそ見って言うか………」
「………」
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