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「桜………」
望ちゃんはつぶやくと、何かを考えるように少しうつむいた。
モルモットを優しくなでたあと、そっと群れへと戻す。
「……桜、このあと移動しないか」
「え、動物園はもういいの?」
「ああ、十分みた。それに……他にも行きたいとこがあるから」
「……そっか、わかった。それでいいよ!」
「………」
望ちゃんはうなずく私を見て、何も言わずに歩きだした。
「あ、ま、待って望ちゃん……っ」
慌ててそのあとを追おうとすると、望ちゃんは立ち止まり私を振り返る。
「……焦んなくていい」
「え」
「待ってるから。おいていったりしねえよ」
「望、…ちゃん」
望ちゃんの隣に立ち、並んで歩く。
歩くのが早い望ちゃんは、小さいときからいつも私の先を歩く。
手を繋いでるときですら、私は望ちゃんの背中を見てばかりだった。
でも今、望ちゃんは私の隣。
私を見て、歩幅を合わせるように歩いてくれている。
「………望ちゃん」
「行くぞ」
「うん…」
肩を並べて歩く、夏の道。
ふと吹き抜ける風は、懐かしいこもった熱の匂いがした。
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