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ぽつり、ぽつり。
望ちゃんが外を見ながら話す。
その後ろ。望ちゃんの後ろの窓から海が見える。きらきら光っていた。
「……桜。さっき、オレが喜ぶと思ったから動物園にしたって言ってたよな」
「うん、そうだよ。……私、望ちゃんが行きたいとこに行きたかったの。望ちゃんに喜んでもらいたかったんだもん」
「なんで……」
「え?」
「……なんでだよ。お前の好きなとこ行きゃいいじゃねえか。遊園地とかカラオケとか……お前はずっとそうだっただろ。自分の好きなもの、やりたいこと、……桜はこれがいいって、オレのやりたいことは怖いって、オレに振り回されるのはイヤだって、いつも言ってたじゃん」
「…………」
怒っているのかと思った。
でも違う。
望ちゃんの口調は驚くほど穏やかで、どちらかというと困っているみたいだった。
「ど、動物園、嫌だった?」
「違う。オレは好きだよ、動物園。でもお前はそれほどでもないだろ?」
「……嫌いじゃないよ。本当だよ。桜、楽しかったよ」
「…………」
どうしよう。
望ちゃん、何が言いたいのかな。
望ちゃんに喜んでほしくてデートの場所を選んだけど、それが却って良くなかったってこと?
押し付けがましかった?
こういうの、うっとうしいのかな?
それとも自分勝手に決めたように思った?
どうしよう。
わからない。
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