あなたと、sweet time

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……。 …………。 …………………。 あ、あれ? 何もないな…… 変化のない様子に、ゆっくりと目を開く。 望ちゃんは私からすでに顔をはなして、少し困ったように見つめていた。 「の、望ちゃん!?」 「いや、桜の髪に糸屑がついていたから取ったんだけど」 「髪!?そ、それなら言ってよー。桜、てっきり……」 そこまでしゃべって、ハッとした。 てっきり……「キスされるかと思った」なんて、望ちゃんに馬鹿にされるに決まってる。 『してほしかったのかよ?』とかニヤニヤ笑いながら言われるんだ。 恥ずかしい。恥ずかしすぎる。 でも 「……悪かった」 「え?」 望ちゃんから返ってきたのは思いもよらない言葉だった。 「ちょっと……迂闊だった。悪いな」 「………」 そう言って、望ちゃんは口元を隠すように手を当て、軽くうつむいた。 わかりにくいけど、少しだけ顔が赤い。 これって…… 気づいた私の顔もカッと熱くなった。 「あ、べ、別に!謝らなくていいよ!えーと、その、桜…望ちゃんからなら嫌じゃないし……」 「……なに言ってんだよ。何もしねえよ」 「そ、そっかあ、そうだよねー」 ホッとしたような、ちょっとさみしいような。 「……ほら、もう天辺だぞ」 望ちゃんが話題を変えるように窓を指す。 観覧車はいつの間にか一番頂上に差し掛かり、眼下には見事な景色が広がっていた。
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