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そして、帰り道。
行きと同じように並んで歩く。
それでも、心なしか行き道より距離が近い…ような?そんな気がする。
「もうすぐ夏休みだね……」
「ああ。まあ、お互いしょっちゅう学校行ってそうだけどな」
「そうだねー……でも、それなら学校でも会えそうだね!」
「………そうかもな」
望ちゃんがうなずいて、そっと私の手を取った。
私たちは手を繋ぐ。
「の、望ちゃん」
「演劇部、頑張れよ」
「う、うん!望ちゃんも、えっと、生徒会とか写真部とか、頑張ってね」
「ああ」
望ちゃんは目を細めて笑った。
そして
「ありがとう」
と言った。
私が言った『頑張って』に対してだったのか。
それとも違うことに対してなのか、わからなかったけれど。
望ちゃんの笑顔が優しかったから。そして笑ってくれたことが嬉しかったから。本当に嬉しかったから。
それだけで胸がいっぱいになった。
「……望、ちゃん」
呼び掛けるといつものぶっきらぼうな感じで「なんだよ」と答えてくれる。
そんなところが、好き。
私の呼び掛けにどんなときでも答えてくれる、あなたが好き。
「ずっと、ずっと一緒にいようね」
私のその言葉に、望ちゃんは
「ずっと、なんてわからねえよ」
と言ってから、私の手を握る力を少しだけ強くした。
「でも……そうなれるように……なればいいな」
つぶやくようにそう続けて、照れ隠しのように空を見上げる。
私もそれにつられて目線を空へ。
抜けるような青にいつの間にか夕暮れの黄金が差し込んできていた。
雲に影がうつり、西の空が切なく光る。
なんとなく寂しい空の色の中、私たちはゆっくり歩いた。
ちょっときつめに、手を繋ぎながら。
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【前編】end‥‥
→→→→【後編】に続く
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